この記事は広告を含んでいます

①『彼岸過迄』「彼岸過迄に就て」を読み解く

漱石がこの小説を書くにあたって書いた前置きです。

 実をいうと自分は自然派の作家でもなければ象徴派の作家でもない。近頃しばしば耳にするネオ浪漫派の作家ではなおさらない。自分はこれらの主義を高く標榜して路傍の人の注意を惹くほどに、自分の作物が固定した色に染つけられているという自信を持ち得ぬものである。またそんな自信を不必要とするものである。ただ自分は自分であるという信念を持っている。そうして自分が自分である以上は、自然派でなかろうが、象徴派でなかろうが、ないしネオのつく浪漫派でなかろうが全く構わないつもりである。
 自分はまた自分の作物を新しい新しいと吹聴する事も好まない。

青空文庫 Kindle版 p.3

 漱石は型にはまることを嫌い、自分が書きたいように書くことを大切にしました。
 西園寺公望からの招宴を断ったり、博士号を辞退したりしています。
 自分の考えを大事にし、堅苦しい枠組みの中に入ってしまうことを嫌ったのかもしれません。
 芥川龍之介などの門下生が漱石宅に集まった『木曜会』では、師弟関係に捕らわれない自由な雰囲気で会話が取り交わされたようです。
 型に捕らわれず、自分の思うところを語り、自由に書くことを門下生に期待したのかもしれません。

 自分はすべて文壇に濫用される空疎な流行語を藉りて自分の作物の商標としたくない。ただ自分らしいものが書きたいだけである。

青空文庫 Kindle版 p.3
タイトルとURLをコピーしました