主人公の田川敬太郎は、大学を卒業したものの就職できないでいます。事業を起こそうかとも考えますが、それもできません。
敬太郎は、様々な職を経験している同じ下宿の森本に興味をもち、その経験談を聞きたくて自分の部屋に招いて、酒を出したりします。
森本が家賃を滞納したままどこかへ行ってしまいました。森本が残したステッキに敬太郎は惹かれます。
一 敬太郎の就職活動
敬太郎は職を求めて運動していますが、なかなかうまくいきません。
二 同じ下宿の森本の昔の話
二 敬太郎は、自分の部屋で森本の昔話を聞くことにしました。
三 過去の森本の興味深い話
三 敬太郎は、現在の森本に興味をもっているのではなく、過去の森本の経験に興味をもっています。森本から幾つも興味深い話を聞きました。
敬太郎から見ると、すべて森本の過去には一種ロマンスの臭が、箒星の尻尾のようにぼうっとおっかぶさって怪しい光を放っている。
青空文庫 Kindle版 p.11
森本はかつては一家の主で、死んでしまいましたが子供もありました。社会的経験も豊富です。学校を卒業したこと以外に何もない敬太郎にとって、森本の過去の経験は気になってしょうがないようです。
四 敬太郎のやりたいこと
四 敬太郎は、学生時代に具体的な事業案を考えて事業化することを考えました。でも、それは採算が合わないという結論になって諦めました。
五 敬太郎の好奇心
五 敬太郎は平凡を嫌っています。毎日外出して電車に乗り、歩き回ります。会った人について、この人は何か奇なるものをもっているのではないかと推測したりします。
毎日電車の中で乗り合せる普通の女だの、または散歩の道すがら行き逢う実際の男だのを見てさえ、ことごとく尋常以上に奇なあるものを、マントの裏かコートの袖に忍ばしていはしないだろうかと考える。
青空文庫 Kindle版 p.15-16
敬太郎は、世の中に起こる非凡なるもの、奇なるものを見たくてしょうがない。自分の周りには全くそんなものはないので、物足らない毎日のようです。
六 森本の話①
六 森本がいろいろなことを言います。敬太郎は森本に酒を出すことにしました。
「しかし僕はあなた見たように変化の多い経験を、少しでも好いから甞めて見たいといつでもそう思っているんです」
青空文庫 Kindle版 p.19
敬太郎と森本の会話です。敬太郎は平凡を嫌う人間です。森本から経験談を引き出すことに夢中になっています。
「それがごく悪い。若い内――と云ったところで、あなたと僕はそう年も違っていないようだが、――とにかく若い内は何でも変った事がしてみたいもんでね。ところがその変った事を仕尽した上で、考えて見ると、何だ馬鹿らしい、こんな事ならしない方がよっぽど増しだと思うだけでさあ。」
青空文庫 Kindle版 p.19
森本が自分の経験からこのように敬太郎に言っているようです。森本は鉄道で仕事をしています。浪漫主義の敬太郎が何か変わった仕事をしたいようですが、森本はその考えに否定的です。
七 森本の話②
七 森本は酒がだいぶ好きなようです。敬太郎はほとんど飲みません。森本の態度がだんだん変わってきました。
不思議ですね。酒を飲まない癖に冒険を愛するなんて。あらゆる冒険は酒に始まるんです。そうして女に終るんです」と云った。
青空文庫 Kindle版 p.21
敬太郎は酒が苦手です。女の方もどうやらこれといって人に話せるような経験がないようです。
森本から見ると、敬太郎には冒険家としての資格がないように思えるのでしょう。
「・・・もっとも教育があっちゃ、こうむやみやたらと変化する訳にも行かないようなもんかも知れませんよ」
青空文庫 Kindle版 p.21
浪漫主義だが、学だけしかないという感じの敬太郎にとっては面白くない話です。
八 森本の話③
八 森本から「世界に類のない呑気生活の御話」があります。
九 森本の失踪
九 ステッキを残したまま森本が突然いなくなってしまいました。
「・・・もっともあなた見たいに学のあるものが聞きゃあ全く噓のような話さね。だが田川さん、世の中には大風に限らず随分面白い事がたくさんあるし、またあなたなんざあその面白い事にぶつかろうぶつかろうと苦労して御出なさる御様子だが、大学を卒業しちゃもう駄目ですよ。いざとなると大抵は自分の身分を思いますからね。よしんば自分でいくら身を落すつもりでかかっても、まさか親の敵討じゃなしね、そう真剣に自分の 位地を棄てて漂浪するほどの物数奇も今の世にはありませんからね。第一傍がそうさせないから大丈夫です」
青空文庫 Kindle版 p.26
森本は、どうしても敬太郎には自分と同じようなことができるとは思えません。酒はダメ、女気ナシ、学だけはアリ。敬太郎には森本と同じようなことができそうにもありません。敬太郎は森本の経験には大いに興味がありますが、森本を尊敬しているわけでも何でもありません。
「あなたのは位置がなくってある。僕のは位置があって無い。それだけが違うんです」と若いものに教える態度で答えた。
青空文庫 Kindle版 p.27
十 下宿の主人の要求
十 下宿の主人が森本の居所を教えてくれと敬太郎に迫ります。家賃を滞納したままいなくなってしまったのです。
十一 森本からの手紙
十一 実際に敬太郎は森本の居所を知らなかったのですが、ある日、森本から手紙が届きます。
十二 森本の手紙、ステッキのこと
十二 森本の手紙には、満州の大連で働いていること、ステッキは敬太郎に譲ることなどが書いてありました。
敬太郎は出入の都度、それを見るたびに一種妙な感に打たれた。
青空文庫 Kindle版 p.36
森本が残していったステッキのことです。このステッキは、後々この小説の中で登場します。