小川三四郎は、謎めいた女 里見美禰子に惑わされます。
三四郎は、上京するときの汽車の中で言葉を交わした広田先生に興味を持ちます。
広田先生宅に下宿している佐々木与次郎には、良くも悪くもさんざん振り回されます。
- 一 主人公の三四郎が故郷の熊本から大学に行くため東京に向かい、汽車の中で二人の人物と関わります。
- 二 三四郎は東京に来て驚きの連続です。同郷の理科大学の野々宮宗八を訪ねます。
- 三 三四郎は佐々木与次郎に出会います。美禰子に会い、いわゆる一目ぼれをしたようです。
- 四 三四郎は、与次郎に広田先生を紹介されます。三四郎と美禰子の実質的に初めての会話があります。
- 五 三四郎は、野々宮と美禰子の関係が気になります。美禰子は三四郎に「ストレイ・シープ」と繰り返し囁きます。
- 六 美禰子から届いた葉書には、2ひきの羊が描かれています。与次郎が「偉大なる暗闇」という記事を書き、日本人を大学の講師に就かせる企みを三四郎に話します。
- 七 三四郎は、美禰子のことで心が乱れています。画家の原口が美禰子の肖像画を描くことになったようです。
- 八 三四郎は与次郎のせいで美禰子に借金します。三四郎と美禰子は原口の展覧会に行きますが、三四郎は美禰子の心の中を計りかねます。
- 九 与次郎は、広田先生の名声を高めるという企みで会合を開きます。肖像画のモデルとして美禰子は原口の家に通います。
- 十 原口が美禰子の肖像画を描いていると三四郎が現れます。美禰子の心は乱れます。美禰子を車で迎えに来た者がいます。三四郎の知らない人物です。
- 十一 与次郎の企みはとんでもない結果を招きます。広田先生が不徳義漢のように新聞に書かれ、小川三四郎が「偉大なる暗闇」を書いたとも書かれています。
- 十二 美禰子は結婚することになりました。三四郎は借りた金を美禰子に返します。
- 十三 美禰子の肖像画が出来上がりました。ストレイ・シープ ストレイ・シープ
一 主人公の三四郎が故郷の熊本から大学に行くため東京に向かい、汽車の中で二人の人物と関わります。
主人公の三四郎が故郷の熊本から大学に行くため東京に向かう場面から始まります。
汽車の中で二人の人物と関わります。一人は女であり、名古屋で同室に泊まることになってしまいました。別れ際に三四郎は女から「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言われます。
もう一人は中学校の教師風の人です。
二十三年の弱点が一度に露見したような心持ちであった。親でもああうまく言いあてるあてるものではない。
青空文庫.Kindle 版.位置№153
単純にいえば初心な三四郎を見透かされたような話です。東京での生活は前途多難なものとなりそうです。
「どうも一念ほど恐ろしいものはない」
青空文庫.Kindle版.位置No.215
教師風の人の話です。豚を動けないようにして美味しいものを鼻の先に置くと、豚の鼻が届くまで伸びるそうです。
「お互いは哀れだなあ」と言い出した。「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になってもだめですね。もっとも建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応のところだが、―― あなたは東京がはじめてなら、まだ富士山を見たことがないでしょう。今に見えるから 御覧なさい。あれが日本一の名物だ。あれよりほかに自慢するものは何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなん だからしかたがない。我々がこしらえたものじゃない」
青空文庫. Kindl版.位置No.252-254
三四郎と教師風の男が浜松で美しい西洋婦人を見た後の言葉です。
日露戦争に勝って浮かれていても、日本という国の実態はとても一等国などといえるものではありませんでした。
「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、「滅びるね」と言った。)
青空文庫.Kindle版.位置No.256-257
教師風の男は、あくまでも現状を憂いています。漱石の心の現れと考えていいと思います。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。)「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがし た。同時に熊本にいた時の自分は非常に卑怯であったと悟った。
青空文庫.Kindle版.位置No.262-266
頭の中は広い。周囲の出来事だけに捕らわれ、今起きていることだけに心を奪われ、広いはずの頭の中が委縮してしまってはダメです。外部の事象だけに包含されて生きるのは楽です。でもそれは卑怯なのかもしれません。
二 三四郎は東京に来て驚きの連続です。同郷の理科大学の野々宮宗八を訪ねます。
三四郎は東京に来て驚きの連続です。
同郷の理科大学の野々宮宗八を訪ねます。野々宮は、光線の圧力の研究をしている物理学者です。
今までの学問はこの驚きを予防するうえにおいて、売薬ほどの効能もなかった。三四郎の自信はこの驚きとともに四割がた減却した。不愉快でたまらない。
青空文庫.Kindle版.位置No.276-278
熊本という狭い世界の中だけにいた三四郎は、留まることを知らない東京の動き方に圧倒されます。現実世界を見ます。
世界はかように動揺する。自分はこの動揺を見ている。けれどもそれに加わることはできない。自分の世界と現実の世界は、一つ平面に並んでおりながら、どこも接触していない。そうして現実の世界は、かように動揺して、自分を置き去りにして行ってしまう。はなはだ不安である。
青空文庫.Kindle版.位置No.283-285
三四郎は、今の自分と東京の現実の社会とのギャップに大きな不安を抱きます。
明治の思想は西洋の歴史にあらわれた三百年の活動を四十年で繰り返している。
青空文庫.Kindle版.位置No.288
これが明治維新の実態でした。
現実世界はあぶなくて近寄れない気がする。
青空文庫.Kindle 版.位置№.376
三四郎は不安だらけです。
三四郎はたしかに女の黒目の動く刹那を意識した。その時色彩の感じはことごとく消えて、なんともいえぬある物に出会った。そのある物は汽車の女に「あなたは度胸のないかたですね」と言われた時の感じとどこか似通っている。三四郎は恐ろしくなった。
青空文庫.Kindle 版.位置№.400-403
三四郎が後に関わる美禰子に出会った場面です。汽車の中で出会った女といい美禰子とといい、三四郎が今までに関わった女とは全く違うので戸惑っているようです。
ただなんだか矛盾であった。
青空文庫.Kindle 版.位置№.411
美禰子が三四郎の前を通り過ぎてから三四朗は「矛盾だ」と言います。でも三四郎は何が矛盾なのかわかりません。
三 三四郎は佐々木与次郎に出会います。美禰子に会い、いわゆる一目ぼれをしたようです。
9月11日に学年が始まりしました。三四郎は与次郎に出会います。三四郎は与次郎の勧めにより図書館に出入りします。
三四郎は、野々宮に頼まれ、入院中の野々宮の妹に荷物を届けます。その帰りがけに美禰子に会い、野々宮の妹の部屋を尋ねられます。いわゆる一目ぼれをしたようです。
四 三四郎は、与次郎に広田先生を紹介されます。三四郎と美禰子の実質的に初めての会話があります。
三四郎は、与次郎に広田先生を紹介されます。上京するときの汽車の中で話をした中学校の教師風の人です。実は高等学校の先生です。
与次郎は、広田先生を大学の先生にするのだと言います。
広田先生の引っ越しの手伝いに三四郎が行くと、思いがけず美禰子が現れました。美禰子も手伝いに来たのです。三四郎と美禰子の実質的に初めての会話があります。
与次郎、広田先生も現れ、最後に野々宮もやって来ました。野々宮が帰るのを美禰子が追います。
「君なぞは自分のすわっている周囲方二尺ぐらいの所をぼんやり照らすだけだから、丸行燈のようなものだ」位置
青空文庫.Kindle 版.位置№.1084-1086
広田先生は、野々宮の研究を高く評価しています。それに比べて与次郎を広田先生が評価しました。
三四郎には三つの世界ができた。一つは遠くにある。与次郎のいわゆる明治十五年以前の香がする。すべてが平穏である代りにすべてが寝ぼけている。
青空文庫.Kindle 版.位置№.1213-1214
三四郎には三つの世界ができました。
一つ目は故郷という世界。脱ぎ捨てた過去の世界です。その世界に接するのは母から手紙が来たときだけと決めます。
二つ目は現世から離れた世界です。広田先生、野々宮がいる世界です。
第三の世界には、歓声があり、笑語があり、女性(にょしょう)がいる世界です。その中に美禰子がいます。三四郎には近づき難い世界です。
五 三四郎は、野々宮と美禰子の関係が気になります。美禰子は三四郎に「ストレイ・シープ」と繰り返し囁きます。
三四郎が野々宮の家に行くと、野々君の妹のよし子だけがいました。三四郎は、野々宮と美禰子のことをききます。
三四郎、広田先生、野々宮、美禰子、よし子は菊人形の見物に行きます。美禰子は具合が悪くなったようで人混みから一人で抜けます。三四郎は後を追います。
二人きりになり、人がいない静かなところで、美禰子は「ストレイ・シープ」と繰り返し囁きます。
「どうかしましたか」と思わず言った。美禰子はまだなんとも答えない。黒い目をさもものうそうに三四郎の額 の上にすえた。その時三四郎は美禰子の二重瞼に不可思議なある意味を認めた。その意味のうちには、霊の疲れ がある。肉のゆるみがある。苦痛に近き訴えがある。三四郎は、美禰子の答を予期しつつある今の場合を忘れて、この眸とこの瞼の間にすべてを遺却した。すると、美禰子は言った。「もう出ましょう」
青空文庫.Kindle 版.位置№.1736-1742
菊人形見物の人込みで美禰子は体調を崩します。
三四郎が美禰子の表情から感じ取ったことの表現です。どうすればこんな表現ができるのでしょう。こんなところにも漱石の魅力を感じます。
「ストレイ・シープ(迷える子 ―― わかって?」
青空文庫.Kindle 版.位置№.1824
美禰子の謎めいた言葉です。誰のことなのか。自分のことなのか。
迷える子という言葉はわかったようでもある。またわからないようでもある。わかるわからないはこの言葉の意味よりも、むしろこの言葉を使った女の意味である。
青空文庫.Kindle 版.位置№.1829-1831
三四郎が完全に弄ばれているのか、美禰子の方が上手なのか。
こんな言葉を囁かれたら眠られなくなってしまいます。美禰子とは何者なのか。
「ええ、すっかり直りました」と明らかに答えたが、にわかに立ち上がった。立ち上がる時、小さな声で、ひとりごとのように、「迷える子」と長く引っ張って言った。
青空文庫.Kindle 版.位置№.1844-1846
三四郎を困らせようとしているのでしょうか。
その勢で美禰子の両手が三四郎の両腕の上へ落ちた。「迷える子」と美禰子が口の内で言った。三四郎はその呼吸を感ずることができた。
青空文庫.Kindle 版.位置№.1859-1861
これはもう三四郎は美禰子の手中に入ってしまったような感じです。
六 美禰子から届いた葉書には、2ひきの羊が描かれています。与次郎が「偉大なる暗闇」という記事を書き、日本人を大学の講師に就かせる企みを三四郎に話します。
与次郎が三四郎に雑誌を見せます。「偉大なる暗闇」という記事を見ろと言います。「偉大なる暗闇」とは与次郎が広田先生を指していう言葉です。与次郎が書いたものです。与次郎は、「文壇は急転直下の勢いでめざましい革命を受けている。」と言います。
美禰子から葉書が届きました。2ひきの羊が描かれています。
同級生の懇親会が開かれるので、与次郎が、その席で日本人を大学の講師に就かせる提案をすると言います。
はがきの裏に、迷える子を二匹書いて、その一匹をあんに自分に見立ててくれたのをはなはだうれしく思った。 迷える子のなかには、美禰子のみではない、自分ももとよりはいっていたのである。それが美禰子のおもわくで あったとみえる。美禰子の使ったstray sheepの意味がこれでようやくはっきりした。
青空文庫.Kindle 版.位置№.1942-1945
三四郎は、講義に出てもstray sheepという言葉でノートを埋め尽くすような状態でした。
とにかく美禰子は人の心を惑わす女です。
また美禰子の絵はがきを取って、二匹の羊と例の悪魔をながめだした。するとこっちのほうは万事が快感である。
青空文庫.Kindle 版.位置№.1976-1978
与次郎が三四郎に読めと言った「偉大なる暗闇」と美禰子が三四郎にくれた葉書を三四郎は対比しました。
三四郎は美禰子の心を感じたようです。
「偉大なる暗闇」には不満足が残ります。
「あの女はおちついていて、乱暴だ」と広田が言った。・・・・・「野々宮の妹のほうが、ちょっと見ると乱暴のようで、やっぱり女らしい。」・・・・・乱暴という言葉が、どうして美禰子の上に使えるか、それからが第一不思議であった。位置
青空文庫.Kindle 版.位置№.1998-2004
広田先生の弁を受けて三四郎は考えます。
「だって、さっき里見さんを評して、おちついていて乱暴だと言ったじゃないか。それを解釈してみると、周囲 に調和していけるから、おちついていられるので、どこかに不足があるから、底のほうが乱暴だという意味じゃ ないのか」
青空文庫.Kindle 版.位置№.2025-2027
広田先生と別れた後の三四郎と与次郎との会話です。
三四郎は、美禰子のことになるととことん考え込んでしまいます。「どこかに不足があるから、底のほうが乱暴」とはどういうことなのでしょう。
「・・・・・我々は古き日本の圧迫に堪ええぬ青年である。同時に新しき西洋の圧迫にも堪ええぬ青年であるということを、世間に発表せねばいられぬ状況のもとに生きている。新しき西洋の圧迫は社会の上においても文芸の上においても、我ら新時代の青年にとっては古き日本の圧迫と同じく、苦痛である。・・・・・」
青空文庫.Kindle 版.位置№.2121-2125
同級生の懇親会でのある学生の弁です。これは、漱石の考えそのもののように思えます。
きょうまで美禰子の自分に対する態度や言語を一々繰り返してみると、どれもこれもみんな悪い意味がつけられる。
青空文庫.Kindle 版.位置№.2329-2330
美禰子がくれた2ひきの羊が書かれた絵葉書で安堵し、大学の体育祭で会ったときの態度と言葉で美禰子を疑い、三四郎は完全に美禰子に翻弄されているようです。
七 三四郎は、美禰子のことで心が乱れています。画家の原口が美禰子の肖像画を描くことになったようです。
三四郎は、美禰子のことで心が乱れています。広田先生と何か話をして気を紛らわせようとします。広田先生からヒントを引き出そうとします。
画家の原口が美禰子の肖像画を描くことになったようです。
たとえば田の中を流れている小川のようなものと思っていれば間違いはない。浅くて狭い。しかし水だけはしじゅう変っている。だから、する事が、ちっとも締まりがない。
青空文庫.Kindle 版.位置№.2355-2357
広田先生が与次郎を評して言った言葉です。自分に向けられた言葉のようで苦笑いです。
「我々の書生をしているころには、する事なす事一として他を離れたことはなかった。すべてが、君とか、親とか、国とか、社会とか、みんな他本位であった。それを一口にいうと教育を受けるものがことごとく偽善家であった。その偽善が社会の変化で、とうとう張り通せなくなった結果、漸々自己本位を思想行為の上に輸入する と、今度は我意識が非常に発展しすぎてしまった。昔の偽善家に対して、今は露悪家ばかりの状態にある。」
青空文庫.Kindle 版.位置№.2407-2412
広田先生は、野々宮を除いて皆露悪家だと言います。与次郎も美禰子もよし子も。三四郎のこともたぶんそうだろうと言います。
以前の社会が良かったとか悪かったとは言っていませんが、我意識の急発展の弊害を憂いています。
今の社会では、他人に迷惑をかけなければ、自己主張、自己の考えを述べることが大切とされています。それはそれでいいのですが、他人への攻撃が激しい社会になっていると感じます。
「・・・・・ところがこの爛漫が度を越すと、露悪家同志がお互いに不便を感じてくる。その不便がだんだん高じて極端に達した時利他主義がまた復活する。それがまた形式に流れて腐敗するとまた利己主義に帰参する。つまり際限はない。我々はそういうふうにして暮らしてゆくものと思えばさしつかえない。そうしてゆくうちに進歩する。」
青空文庫.Kindle 版.位置№.2420-2423
今は、利他的な思想や活動が発展しながらも、同時に利己主義が増長しているように感じます。
「・・・・・ちょうどアメリカ人の金銭に対して露骨なのと一般だ。それ自身が目的である。それ自身が目的である行為ほど正直なものはなくって、正直ほど厭味のないものはないんだから、万事正直に出られないような我々時代の、こむずかしい教育を受けたものはみんな気障だ」
青空文庫.Kindle 版.位置№.2441-2444
このあたりの感覚は、今でも日本人とアメリカ人とでは多少違いがあるように思います。でも、どんどんアメリカ人化しているとも言えるでしょう。
三四郎は、美禰子が自分のことをどう思っているのか、そのヒントを広田先生から聞きたいのですが、広田先生の話を聞いていると、美禰子のことが疑心暗鬼になります。
八 三四郎は与次郎のせいで美禰子に借金します。三四郎と美禰子は原口の展覧会に行きますが、三四郎は美禰子の心の中を計りかねます。
三四郎は与次郎にお金を貸しましたが、家賃の支払い期限の直前になってお金の用立てができたと言います。けれども、それは美禰子から借りるのだと言います。与次郎では信用できないので、三四朗に渡すと美禰子は言います。
日本人を大学の講師にする与次郎の企みは、順調に下準備が進んでいるようです。三四郎は与次郎の手腕に関心します。日本人の講師とは広田先生のことです。
美禰子に誘われ、三四郎は原口の展覧会に行きます。原口と野々宮君に会い、ここで気になる出来事がありますが、三四郎は美禰子の心の中を計りかねます。汽車の中で女が言った「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」という言葉は本当のようです。
三四郎は、一度はお金は借りなくていいと言いましたが、最終的には借りることになりました。
美禰子の顔や手や、襟や、帯や、着物やらを、想像にまかせて、乗けたり除ったりしていた。
青空文庫.Kindle 版.位置№.2690-2692
三四郎は、美禰子に会いに行けるのはうれしいが、美禰子がどんな態度をとるのか盛んに気にします。十通りも二十通りも想像します。自分がどうするかということを考える余裕がありません。
「馬券であてるのは、人の心をあてるよりむずかしいじゃありませんか。あなたは索引のついている人の心さえ あててみようとなさらないのん気なかただのに」
青空文庫.Kindle 版.位置№.2764-2766
与次郎に言われて三四郎は美禰子に金を借りに行きます。与次郎は三四郎が金をなくしたと嘘の説明をしたようです。本当は、広田先生の金で与次郎が馬券を買ってしまったのです。
美禰子の言葉に三四郎は鈍感なようです。ここまで来てお金は借りなくてもいいと言ったりします。もう謎の女ではなくなったはずなのですが。
それにしても、「牽引のついている人の心」などと自分で言う美禰子はなんなんでしょう。
九 与次郎は、広田先生の名声を高めるという企みで会合を開きます。肖像画のモデルとして美禰子は原口の家に通います。
与次郎の勧めで原口が「精養軒の会」を開きます。全部で30人程度。その中には、広田先生、野々宮、原口がいます。与次郎と三四郎も出席します。与次郎の狙いは、広田先生の名声を高めることです。
三四郎は、美禰子から借りた借金を返すために親元に30円を送るよう頼みます。母親はそれを野々宮に送り、三四郎に渡すよう手紙を添えます。
肖像画のモデルとして美禰子は原口の家に通います。三四郎は与次郎から原口の住所を聞き取ります。
三四郎は寒いのを我慢して、しばらくこの赤いものを見つめていた。その時三四郎の頭には運命がありありと赤く映った。三四郎はまた暖かい蒲団の中にもぐり込んだ。そうして、赤い運命の中で狂い回る多くの人の身の上を忘れた。
青空文庫.Kindle 版.位置№.3249-3251
三四郎が眠りについた後に火事が起きます。
赤い火を見た後の三四郎の様子です。「赤い運命の中で狂い回る多くの人の身の上」とは、火事に巻き込まれた人のことだけではなく、むしろ、自分と自分を取り巻く人たちの運命を暗示しているようです。
十 原口が美禰子の肖像画を描いていると三四郎が現れます。美禰子の心は乱れます。美禰子を車で迎えに来た者がいます。三四郎の知らない人物です。
三四郎が広田先生を訪ねると先客がいます。
三四郎は原口の家に行きます。美禰子に向き合って原口が肖像画を描いています。美禰子の心は乱れます。
美禰子が原口の家を出ると、三四郎も一緒に出ます。美禰子は、三四郎がなんのために原口の家に来たか尋ねます。「ただ、あなたに会いたいから行ったのです」と答えます。
美禰子を車で迎えに来た者がいます。三四郎の知らない人物です。
現代人は事実を好むが、事実に伴なう情操は切り捨てる習慣である。切り捨てなければならないほど世間が切迫 しているのだからしかたがない。位置
青空文庫.Kindle 版.位置№.3308-3309
広田先生と柔術の学士との間の会話です。
ひとの死に対しては、美しい穏やかな味わいがあるとともに、生きている美禰子に対しては、美しい享楽の底に、一種の苦悶がある。三四郎はこの苦悶を払おうとして、まっすぐに進んで行く。進んで行けば苦悶がとれる ように思う。
青空文庫.Kindle 版.位置№.3345-3348
三四郎はもう完全に美禰子に恋焦がれています。「度胸のないかた」と言われた人間から脱皮したのか。あるいは、恋に苦しむ一青年なのか。
「・・・そこでこの里見さんの目もね。里見さんの心を写すつもりで描いているんじゃない。ただ目として描いている。この目が気に入ったから描いる。この目の恰好だの、二重瞼の影だの、眸の深さだの、なんでもぼくに見えるところだけを残りなく描いてゆく。すると偶然の結果として、一種の表情が出てくる。・・・」
青空文庫.Kindle 版.位置№.3488-3491
原口が美禰子の肖像画を描きながら三四郎に話している場面です。美禰子の心は乱れていて、これ以上座っていられないようです。
三四郎が現れたためか、三四郎がお金を返すと言ったためか、原口が美禰子の「目」のことを話しているためか、あるいは、原口の家を出た後に美禰子を車で迎えに来る男のことを考えていたのか。
「きょう何か原口さんに御用がおありありだったの」・・・「あなたに会いに行ったんです」
青空文庫.Kindle 版.位置№.3546-3550
原口の家を出た後の美禰子と三四郎の会話です。三四郎としては思い切って言ったのですが、美禰子は何も感じていないようです。
十一 与次郎の企みはとんでもない結果を招きます。広田先生が不徳義漢のように新聞に書かれ、小川三四郎が「偉大なる暗闇」を書いたとも書かれています。
与次郎が、大学の外国文学科の講義を日本人が担当することになったが、広田先生ではないという話をします。それどころか、広田先生が門下生を使って「偉大なる暗闇」なる論文を書かせて小雑誌に草しめた。自分が外国文学科の講師になる運動をこそこそと始めたなどと新聞に書かれています。「偉大なる暗闇」を書いたのは小川三四郎と新聞に書かれています。
偽りの記事 ― 広田先生 ― 美禰子 ― 美禰子を迎えに来て連れていったりっぱな男 ― いろいろの刺激がある。位置
青空文庫.Kindle 版.位置№.3691-3692
三四郎はたいへんな状況になってしまいます。
「驚くって ― それはまったく驚かないこともない。けれども世の中の事はみんな、あんなものだと思ってるから、若い人ほど正直に驚きはしない」位置
青空文庫.Kindle 版.位置№.3787-3789
新聞の件で三四郎が広田先生に謝りに行くと、その前の日の晩に与次郎が広田先生に説明して謝っていました。さすが、懐が深い広田先生です。
「読者の悪感情を引き起こすために、書いてるとしか思われやしない。徹頭徹尾故意だけで成り立っている。常識のある者が見れば、どうしてもためにするところがあって起稿したものだと判定がつく。あれじゃぼくが門下生に書かしたと言われるはずだ。あれを読んだ時には、なるほど新聞の記事はもっともだと思った」
青空文庫.Kindle 版.位置№.3803-3805
与次郎作の「偉大なる暗闇」を広田先生が酷評しています。
十二 美禰子は結婚することになりました。三四郎は借りた金を美禰子に返します。
三四郎がインフルエンザになり寝込んでいると、与次郎が来て、美禰子とよし子に結婚の話があると言います。はっきりしないので、与次郎がよし子を見舞いに来させ、じかによし子にきくことになりました。
美禰子は兄の友だちのところに行くことが決まりました。
インフルエンザが治るとさっそく三四郎は美禰子に会いに行きます。美禰子は教会に行っていました。三四郎は借りた金を返します。結婚することを美禰子からじかに聞きました。
「我はわが愆を知る。わが罪は常にわが前にあり」
青空文庫.Kindle 版.位置№.4164-4165
美禰子の「あやまち」とは何でしょう。
兄から勧められた人との結婚であるのか。
三四郎以外の男と結婚することか。
三四郎を愚弄したのか。
結果として多くの男を秤にかけてしまったのか。
自分が良妻となれぬと思っていながら結婚するのか。
『三四郎』を何回も読む必要がありそうです。この言葉は謎です。
十三 美禰子の肖像画が出来上がりました。ストレイ・シープ ストレイ・シープ
美禰子の肖像画が出来上がりました。「森の女」と名付けられます。
広田先生、野々宮、与次郎、三四郎が観に行きます。
最後の三四郎の言葉 ストレイ・シープ ストレイ・シープ