森本に始まって松本に終る話を敬太郎が述懐しています。
要するに人世に対して彼の有する最近の知識感情はことごとく鼓膜の働らきから来ている。森本に始まって松本に終る幾席かの長話は、最初広く薄く彼を動かしつつ漸々深く狭く彼を動かすに至って突如としてやんだ。けれども彼はついにその中に這入れなかったのである。
青空文庫 Kindle版 p.323
敬太郎は様々な人の人生の物語を知りました。自分がしたことは田口から頼まれた探偵だけです。自分が主役と言えるような事は何もしていません。この人たちの人生の物語が敬太郎に何かをもたらすのでしょうか。
大きな空を仰いで、彼の前に突如としてやんだように見えるこの劇が、これから先どう永久に流転して行くだろうかを考え た。
青空文庫 Kindle版 p.323-324