「彼岸過迄について」という序文で漱石が言っているとおり、短編小説が集まって一つの長編小説となっているのがこの小説の特徴です。
①彼岸過迄について
②風呂の後
③停留所
④報告
⑤雨の降る日
⑥須永の話
⑦松本の話
⑧結末
『雨の降る日』と『須永の話』は、実際に一つの小説として文集に収録されました。
「修善寺の大患」後の後期三部作の最初の作品です。
いくつかの短編の中で、『須永の話』は特に読み応えがあります。『彼岸過迄』は、田川敬太郎が主人公とされますが、須永市蔵を実質的な主人公を捉える人も多いと感じます。
『風呂の後』、『停留所』、『報告』は田川敬太郎が主役です。
『停留所』の冒頭から須永市蔵が登場します。
『雨の降る日』では、須永に大きな影響を与えた松本のことが中心になっています。
その後、『須永の話』『松本の話』と続きます。
敬太郎と市蔵は友人ですが、全く違った性質の人間です。
外から観ると同種の人間のように見える須永と松本ですが、彼らの心の働きには大きな違いがあります。
須永市蔵と田口千代子との関係は、悲しくなるような運命により形作られています。 『彼岸過迄』は、人物の対比、人間関係の描写が実に興味深いところです。